50代も半ばを過ぎた私は懸命に駆けてきた人生を振り返ることがある。

小学生の頃、習字教室に通い、偶然にも近所に京都で一番指導力のある先生の教室へ通えた。妻も広島で同じように偶然広島一の先生のもとで指導を仰げた。
時は過ぎ、中学生の頃、何となくただ面倒くさい、友達が皆辞めたなどの理由で「教室を辞めたい」と言った私に「一度やろうと決めたこと、まだ自分のものに成ってない中途半端な状態で辞めるのはもったいないぞ」と言ってくれた両親に今では心から感謝しかない。
高校生になった私は陸上部のキャプテン、受験勉強と多忙を極めたが教室へ通うことは辞めなかった。書くことが好きになっていた。
京都教育大学書道専攻科で妻と知り合い、結婚後は二人三脚で書道教室を運営。生徒がたった3人からのスタートだった。今では大勢の会員様に恵まれたが、最初に教えた小学生を忘れることはない。広い教室にポツンと一人座っている姿。それは私を救いに来てくれた天使のように見えた。今でも鮮明に思い出す。

あれから30年以上が経ち、そろそろ老後という言葉が頭をかすめるようになった。健康面の不安などはもちろんある。しかし、世間でよく言われる何をして過ごしてよいか分からないといった不安は皆無だ。常に思い切り書に時間を使って、理想の作品作りに没頭したい、という欲求は途切れることがない。
「書は老熟の芸術」と言われる。ある程度の年齢に達しないと書に深みや味わいが出てこないようだ。間もなく訪れる老いが本当に私の中で「熟」してくれるのか、不安もある。がワクワクもする。こんな気持ちにさせてくれる書に出会えたこと、そしてそれを継続させてくれた家族、師匠に心から感謝の意を表したい。

そして、「字を書くのがたまらなく好き」な会員様のサポートを継続し、この豊かな人生をくれた書に少しでも恩返しをしながら残りの人生を歩んでいきたい、と思う。たくさんの天使に囲まれながら・・・

代表　水江風海